2023年3月中旬、鳥取県立図書館小林隆志館長に案内いただき鳥取県内の市町村立図書館8館を訪ねて回るという、大変貴重な機会に恵まれました。どの図書館も、住民に愛される読書文化・学習・交流のセンターとして地域に深く馴染んでいるのが実感され、いろいろ個性的な施設や本や取組みも随所に見て取れて、とても楽しく勉強になる経験でした。
さまざま印象に残り刺激を受けた中で、特に、南部町立法勝寺図書館とそれが入っている複合施設「キナルなんぶ」についてご紹介したいと思います。複合施設の中の公共図書館として、開放性や包容力、親しみやすさといった点でひとつの理想形だと感じられた施設です。
当日はあいにく蔵書点検による臨時休館、もうひとつの町立図書館・天萬図書館にいらっしゃった角田有希子館長に作業を抜けてもらってご案内いただくという、小林館長ならではの荒業でした。
複合施設「キナルなんぶ」に足を踏み入れた途端、利用者のざわめきと一緒に独特の唸るような機械音が耳に飛び込んできました。「今日は多目的ルームでドローンのイベントをやってるんです。」と角田館長。施設全体の今月の月間テーマ「防災」に合わせた「ドローン消防隊!」というイベントがちょうど開催中で、響いていたのはドローンのプロペラ音でした。
「キナルなんぶ」は、「図書館エリア」「生涯学習エリア」「コワーキングスペース」「カフェエリア」の4つのエリアと、博物館的な「なんぶふれあい館」とで成り立っています。地元メーカーの木質材料CLTがふんだんに使われ、高い天井と窓が木の柔らかな雰囲気と相まって、明るい伸びやかな空間が出迎えてくれます。
図書館の手前部分は児童書コーナーになっていて、エントランスやカフェエリア、コワーキングスペースと文字通り一体化しています。図書館の盗難防止ゲートは3箇所ある複合施設全体の出入口に設置されており、図書館エリアと他エリアの出入りを制限する必然性が無いのだそうです。3箇所の施設出入口のうちのひとつは隣接する小学校の通用口で、平日下校時間には小学校からダイレクトに大勢の児童がなだれ込んできて、図書館をはじめ施設内あちこちで寛ぎ始めるのだとか。次回はぜひ開館日の平日夕方に訪ねてみたいと思います。
図書館エリアの奥はすこし照明を落とした落ち着いた雰囲気の一般書コーナー。最奥壁付には閲覧席が並んでいます。児童書コーナーのざわめきも上手い具合にあまり届かないそうですが、それでもうるさいと感じられる利用者のためにガラスで遮音された別室も設けられています。よくある対面朗読室は稼働率がそれほど高く見込めなかったので、それとの兼用だとか。いろいろよく考えられています。
そしてこの法勝寺図書館、さらに驚いたのは夜間の無人開館です。南部町は近隣の米子市へ勤めに出掛ける方が多いそうで、「キナルなんぶ」そのものの開館時間は夜22時まで。図書館スタッフの勤務時間は19時までなのですが、首長の強い意向もあり、図書館スタッフ無しで21時まで開館するようになって、もうかれこれ1年以上経過しているそうです。角田館長曰く「意外と大丈夫ですよ」。地域に愛される施設ならではの運用でしょうか。
人口1万人の町に「キナルなんぶ」ができて2年、最初聞いたときは驚いた年間来館者数20万人は、中身を知れば納得の数字でした。陶山清孝町長はパンフレットで「南部町の未来づくりの拠点となることを願っています。」と綴っておられます。図書館スタッフをはじめ地域の多くの方々が、この素晴らしい施設に深く継続的にコミットしていかれることで拓かれる豊かな未来に、今後末長く注目していきたいと思います。
今回の一挙8館訪問、もうひとつ印象的だったのは、各館の方々と県立の小林館長とのフレンドリーな関係性でした。私服アポなし、しかも得体の知れない同行者を連れて(私です)、でも、どこに行っても笑顔で交わされるちょっとした会話の端々に、積み上げてこられた信頼や親しみが染み出ているのが感じられました。都道府県立図書館と市町村立図書館との理想的な関係性を目の当たりにできた気がします。
(本棚演算株式会社 今井太郎)
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