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人を惹きつけ続ける椎葉の協力隊制度

本の場

2022/08/05

「クリエイティブ司書」「ヒトを育てるeスポーツプレイヤー」「飛び出す司書」「移住コーディネーター」「‘蜂’から‘∞’を生む番人」「秘境のよくばり仙人」「秘境のムラサー立上人」…。
7月27日の「本の場」第8回ウェビナーは椎葉村編の最終回、歴代地域おこし協力隊員計5名の方々から、椎葉との出会いやそこでの仕事・暮らし、椎葉の協力隊制度の特徴や強みについて多角的に語っていただきました。冒頭に挙げたのはいずれも椎葉村の地域おこし協力隊募集時のミッション名です。これら奇抜なネーミングは、ただ奇を衒っているだけではなく、その裏にしっかりした実際的ニーズとゆるやかな想像力が良い塩梅で込められていて、それは椎葉における同制度の成功の秘訣でもあるようです。

以下に抜粋の書き起こしをお届けします。

椎葉村地域おこし協力隊「ヒトを育てるeスポーツプレイヤー」 ソーントン・マイク・直樹さん

1年ぐらい広島に戻ってPCR検査場の現場監督をバイトでやってたんですけれども、そのときにちょうどパソコン関係とかで新しい面白い仕事がないかなぁって探してて、で椎葉村の地域おこし協力隊の「ヒトを育てるeスポーツ」のインストラクターっていう項目を見つけたんですね。僕自身eスポーツとかオンラインゲームとかするの得意で、やってることも尖ってたってこともあったので、将来に繋がるかなというふうにも思って応募したっていう感じです。
でそのときはまあ具体的に何をするのかみたいなことは村ででもそんな決まってはいなかったんですよ。なんかeスポーツを通じて村が活性化してけばいいかなっていうふわっとしたところではあったんですけれども、当面の目標としては、まずコミュニティの活性化ってことで、お祭りがあった際にブースを使ってゲーム大会をやってみたりですとか、実際に教室とかクラブをつくって大会に出てみたりとか、あと、教育ツールとしてのeスポーツを使おうってことで、eスポーツで強くなるに当たって論理的思考力を養っていって子どもたちもeスポーツ以外のところでそういった考え方を身につけてもらえるようにしてほしいなっていう目標のもと、いま活動しているというところです。
活性化のほかにも、他所から人をお招きしたいなぁという気持ちもちょっとあるので、なのでKaterieを利用してeスポーツの合宿を誘致することを考えてるんですね。プロとアマ問わずに、宮崎県、宮崎の外も関係なしに、営業してみるだけしてみて、広報とか見通しとか立てて村の補助金を使って、二泊三日くらいのプランを考えてみたりしています。年内でいちおう3件を目標にしてはいるんですけれども、今ひとつお話が進んでいる最中で、あともう2つ頑張って取り組もうねっていう段階ですね。

(地域おこし協力隊「ヒトを育てるeスポーツプレイヤー」として着任した際、具体的に何をするのかが明確には決まっていなかったのは、小宮山さんの「クリエイティブ司書」のときと同様ですね、という指摘に対して)
まあでもそうですよね。やっぱりこうなんとなく、(村側にも)たぶん頭の中でなんとなくのイメージはあるんですよね。最近eスポーツ流行ってるし、それをもとに教育してるところもあるから、ウチもいけるんじゃないか、みたいなところから始まったと思うんですね。そっからしっかり要件固めて、実際なにをやっていくのか、みたいなところを考えていくのが僕の仕事っていうふうに思っているので、だからまあ、そこが逆に固まってないっていうのが、いちおうまあ腕の見せどころかなぁ、というふうには思ってるんですけど。

人を惹きつけ続ける椎葉の協力隊制度

椎葉村地域おこし隊「飛び出す司書」着任予定 長谷川涼子さん

その間ちょっといろいろ考える時間ができて、関東もけっして悪い土地では、嫌いだったってことはないんですけれども、やっぱり山が見えるところが良いなっていうのと、本の仕事をしたいなっていうのもどこかにちょっとありまして、移住関係のオンラインサービスに登録しましていろいろ情報を探してました。そのときのサイトがあるときオンラインイベントをやりまして、その中で、自分の履歴、これこれこういうことに興味があってこういう仕事をしてきてみたいなのを登録すると、合ってそうな地域を3つくらいピックアップしてくれるっていう、でこことこことここって紹介してくださった中のひとつが椎葉村でした。そこで椎葉村の担当の方とお話しさせていただいたとき、数日後に新しい地域おこし協力隊のミッションを実は出すんですよ、みたいな話をちらっとされていて、それがあの「飛び出す司書」、こちらの図書館の新しいミッションだったので、実家からはもちろん遠いんですけど、環境はすごく良さそうだし、図書館っていうのももちろんそうですけど、図書館の仕事を村内全域に広げていくっていうのがミッションのひとつでして、それもすごく面白いと思ったんですね。そういえば自分もカンボジアにいたときに、まあ日本とはもちろん教育レベルだって天と地の差なんですけれども、学校に行けない本が読めないそもそも字が読めないみたいな子どもたちを大勢見てたので、本っていう選択肢の無い、というか少ない人たちにそれを広げていくというのは、とても良いなと思いまして。椎葉の子どもたちはちゃんと学校へはもちろん通えてるんですけれども。そういう経緯で今回応募させていただきました。

(飛び出す絵本をつくる会社に勤めていたという長谷川さんの前職に絡めて、将来椎葉村にも絵本クリエイターが生まれたら良いですね、という発言に対して)
それはあの、すごく期待したいです。なんだろう、飛び出す絵本って…、マイクさんの得意なことと直接関係するかはちょっとわからないですけれど、仕掛け絵本って畳んだらちゃんと1冊の本になる、開いたら飛び出す、とかやっぱり理系的な能力、数学的な能力が要るところなんですね。(マイクさんとも)ぜったい相性は良いと思うんです。

一般社団法人逞しい未来代表理事(椎葉村地域おこし隊OB) 村上健太さん

今回軽い気持ちで、賑やかしのつもりでやってきたら、なんか(「本の場」の)2回目3回目と見逃し配信を観たらですねぇ、完全に小宮山ワールドになってしまっている。ちょっとそこに迷い込んでしまって、さあどうしましょうかっていうふうに考え中なんですが。僕はですね、2017年4月から椎葉村に来ています。期で言うと前回の、今日も来てますけど、上野くんと同期というかたちになるんですけども、小宮山くんがですね、これまでの話で、図書館をつくる人なんだっていうふうにみなさん認識してるんじゃないかと思うんですけど、小宮山くんが図書館をつくる人だったら、僕はなんか、家と暮らしをつくる人、っていうふうに言えるのかなと思っていて。つい最近ですね、椎葉村内の古民家というか、もう15年以上人が住んでいなかったような家を、いろんな方法を使ってなんとか改装してシェアハウスとしてなんとか始めたりとかあるんですけど、まあそうやって、家をつくって、その家を舞台にした暮らしをつくって、「この村で生きていく」ってことをまあなんとかやろうとしている、という人間です。そういう意味ではこれまでの3回のウェビナーで語られたこととはちょっとレイヤーが違うかもしれないんですけど、まあいろんな人がいるんだなってことがわかってもらえれば良いかなと思って今日は登場しました。
最初僕も地域おこし協力隊の制度を使って移住してきたので、「移住コーディネーター」ということで3年、任期満了までやりました。ほんとにね、ミッションの中身が固まってないっていう話がちょこちょこ出てますけど、まあそれは昔からそうと言うか、(椎葉)豊さん(椎葉村役場地域振興課課長)のやり方みたいなところがあるんですけど、僕んときもぜんぜん固まってなかったので、逆に「移住コーディネーター」ってことだったら何でもできるかなっていう、そういう下心というか目論見もあって来たんですけど。まあ小宮山くんとか長谷川さんと違うのは、プロジェクトありきで来たわけじゃないってことですね。「移住コーディネーター」っていう、椎葉村のUIターンを増やしましょう、っていう今回のウェビナーもそういうテーマになってますけど、そういう方針がまだそこまで固まってないときに来たので、僕としてはどっちかというと、椎葉村みたいな環境に住む手段として地域おこし協力隊という制度を使った、ということでしたね。
前回マルチ(業)みたいな言葉も出ましたけど、まあマルチで動けるだろうってことだったんですが、具体的に何をやったかと言うと、今回(「本の場」椎葉村編)第1回に登場した椎葉豊さんが当時担当だったので、豊さんと二人三脚でさっきから話に出てるSMOUT(スマウト、移住スカウトサービス https://smout.jp/ )の導入をしたりだとか、村内の空き家をマネジメントしてみたりだとか、あとはプログラムのコーディネートですね、たとえば東京大学のフィールドスタディってなんかプロジェクトがあって、地域の課題を大学の知見を使って学生が解決するっていう、そういうコンセプトのプログラムがあって、それの受け入れをやったりとか、あと自分で「週末秘境」っていう、ちょっと週末気軽に秘境に来てみませんかみたいなプログラムを企画してやったりとか、まあそういうことをやってました。あとはですね、最後3年目にこういう移住本って言われてますけど、椎葉村はですね、『ONLY ONE Shiiba』っていうとっても素敵なイメージブックがあるんですけど、まぁほんとに都会に行けば行くほど評価が上がるっていう冊子が、これは僕が来る前からあったんですが、これを作ってるアートディレクターの小野さんと一緒にこの『椎葉へ移住』っていう本、『ONLY ONE Shiiba』の方がどっちかって言うとビジュアルイメージを打ち出してるので、そこでは描き切れない細かいことを文字で書いていきましょうってことで、まあ文字ばっかりですけど、でもなんかお蔭様で「すごく読みやすい」って好評をいただいてます。そうですね、これは特に村の人が読んでくれて、けっこう好評いただいてるので、それはなんか嬉しいというふうに思ってます。
でそんなようなことをした3年間が終わって、2020年の4月に任期終了ということで独立して、「この村で生きていく」ってことをいよいよやっていったんですけど、まあいちおう勢いで、別に個人事業主で良かったんですけど、法人をつくることになったので、「逞しい未来」っていう名前の法人をDIYでつくった、と。

人を惹きつけ続ける椎葉の協力隊制度

合同会社ミミスマス(椎葉村地域おこし協力隊OB) 上野諒さん

(Katerieの中にあるスノーピークビジネスソリューションズとのコラボやeバイクのレンタルといったさまざまな工夫がとても面白い、という声に対して)
いやぁ、あれは当社の中では趣味的事業と言うか、完全に自分が外遊びが好きで。交流スペースをそもそも、いちばん最初に出た椎葉豊さん、役場の方が、「公民館っぽくしたくないんだよ。とにかく行政っぽくない空間にしたいんだ。アウトドア空間にしたいんだ」っていう話があって、そういう中で自分も企業誘致とかいろんな会社さんに営業して回ってる中でスノーピークビジネスソリューションズさんも営業してて、その中でこう、アウトドアっぽい雰囲気だと良いよねぇ、ってことでサポートいただいたっていう。
椎葉はけっこう公園が無かったんですよね、あんまり。ちょっとした小さい公園はあったんですけど、公園が意外に無かった、と。で、なんかこう遊ぶ空間、小っちゃい子が安心して、こう、放し飼いって言うとなんかあれなんですけど、放ったらかして走り回らせられる空間が意外と無くて、昔の方はワイルドなんで「山で遊ばせれば良いやん」みたいなことを言うんだけど、2歳児3歳児を椎葉のワイルドな山で放っとけるかと言うとなかなか厳しいんですよね。そういう意味で公園のニーズってKaterie設立のときにかなり高くあって、で、そういうコンセプトもまぁ豊さんのところにあって、公園の部分と屋内とを繋ぐ場所ってことで交流ラウンジがアウトドアっぽい雰囲気になった、と。

(今まで見た図書館の入っている複合施設の子ども・ティーンズ向けサービスの中では武蔵野プレイスがトップクラスだったが、Katerieの交流ラウンジも本当に良かった、という声に対して)
いま出てきた武蔵野プレイスはまさにKaterieの構想段階で見学に実は行ってて、それこそ椎葉豊さんに「行くぞ」って連れられて行った記憶があります。

椎葉村図書館「ぶん文Bun」クリエイティブ司書 小宮山剛さん

(地域おこし協力隊という制度は全国的にはあまり上手く機能していないイメージだったが、けっきょく個人の資質や熱意次第なんだと思った、という参加者からの感想に対して)
Googleで「地域おこし協力隊」って調べていただくと、最初に、僕のパソコンだけかもしれないですけど、最初に出てきた候補が「地域おこし協力隊 ひどい」だったんですね。「マジかっ」と思ってですね、まぁみなさんもぜひ調べていただきたいと思いますが、それぐらい悪名高さというのもある制度ではあると思うんですよね。と言うのもミスマッチですね。「聞いてた話と違う」みたいな、「こんなミッションのつもりじゃなかった」とか、「地域の人との軋轢が生まれた」とかそういう話は椎葉村の近くでも聞くところはありますし。で、そういったときに何が起こっているかと言うと、ひとつは、ミッションがすごくぼやけていると言うか、ミッション制をとってない。「地域を活性化してくれる人募集します」みたいな、「まちの広報担当を募集します」みたいな、それでマイクさんみたいに「腕の見せどころだぜ」と思ってくれれば良いんですけれども、そういう人ばかりではないですよね。あと、一方では、ガチガチにミッションを固めてるのも、何でしょう、やっぱり地域おこし協力隊が任せられるような事業ってそれ通りに進む場合ばかりではないので、却って「話が違う」みたいなことも起きるのかなと思います。まぁ言ってみれば僕も、「手作り感満載の村の読書スペースを創り上げてください」からのこれ(背後の「ぶん文Bun」を指さして)ですから、まあ他責で、他人の責任にしてしまうなら逃げ出すことも存分にできたのかなぁ、っていう気はしています。まぁただただ、ここで僕たち頑張ってます、僕たちみんなすごいでしょ、みたいな話をしても仕方なくて、ただ、今日の(ほかの椎葉村地域おこし協力隊の)自己紹介を聴いてるとなかなかなタレントが揃ってるなという気がしないでもないですけれども、ただやっぱり、募集の仕方を椎葉村すごく気をつけてるなということは、今、また私が入ったときも、感じられます。ミッション制でちゃんとタイトルを決めて募集してるっていうことと、ある程度の自由さ、かなり自由ではあると思うんですけれども、それを行政のルールの中で泳がせる、じゃない、飛び立ってもらうというようなサポートを考えてる。あと、採用担当者から課長レベルまで「3年後どうだ?」「このミッションで募集して3年後ちゃんと食っていけるかな?」「村としてそれをサポートできるかな?」っていうことを先回りして採用のミッションを考えてる、というのがすごく印象深いところですね。ある意味で、優しいと言うか慎重と言うか。そういった伝統が築かれつつあるのかなという気がします。

人を惹きつけ続ける椎葉の協力隊制度
https://smout.jp/areas/1876 より

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