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図書館の設計デザインに地域性を備えるとは

本の場

2022/06/14

6月9日に開催しました「本の場」ウェビナー第2回「新荒尾市立図書館ができるまで。そして、これから②」では、「居心地の良さを生み出した内装設計―「干潟の図書館」コンセプトはどう膨らんでいったか」と題して、新図書館の基本構想と内装設計施工を実際に担当された企業の方々に、それぞれの業務の実際について、豊富な資料とともに率直に語っていただきました。基本構想の鍵となるコンセプトを見出すために丁寧なリサーチ、分析、議論を積み重ねるケイ・ニー・タン・アーキテクツの川上さん、その地域ならではの施設とするために地域の素材を探し工場や職人の方々を積極的に巻き込む株式会社船場の小倉さん、お二人のお話の一部を抜粋してご紹介します。

図書館の設計デザインに地域性を備えるとは

ケイ・ニー・タン・アーキテクツ 川上祥志さん

今回あまりプレゼンとして消化しきれてない部分があるんですけれども、実際我々がコンセプトを立てるにあたって、どれぐらいのものをリサーチしてどれくらいのものをスタディして、綺麗なコンセプトに行き着くまでに実際どれくらいの道のりがあったのかということを、みなさんにご理解いただく良い機会じゃないかなと思っております。

(リサーチやコンテクスト分析が進んできた)この頃になると、徐々に(荒尾市に対して)親近感が湧いてきました。僕は島根県の浜田市という人口6万人くらいの地方に住んでいたんですけれども、そこにもゆめタウンがあって、畳ヶ浦という地層が隆起した干潟に近いようなものがあったり、世界遺産の石見銀山があったり、そういうのがあって少し親近感が湧いてきたときでありました。

そういうの(コンテクスト分析)を基に、実際にコンテクストを要約して、どういう空間をつくっていけば良いのかというのを、まずアナライズしました。それと同時期に、いただいた図面を見て、この場所、現場がどういうものなのかということを考察していきました。重要になった部分としては、採光がテラス側にしかないことと、防火シャッターがこう入っていてそれは基本的には変えられない、あとはもともとボーリング場としてつくられていたので柱の無い大空間が広がっている、けれども床の耐荷重があまり無い、っていうこともわかりました。同時に、右のモール側の方に吹き抜けがあるんですけれども、そのおかげで、モール中心部の方から視線がズンと抜けてきて入ってくるよ、というようなコンテクストなどを分析して、デザインを出していきました。

それを基にだいたいのゾーニングをつくっていきました。モール側の方に書店、まあ図書館と商業部分(モール)のあいだにバッファはどうしても置きたいと思っていたので、書店をまずこちらに置いて、内側に図書館や学習エリア、学習エリアや交流スペースはやっぱり光がある部分に置きたいなと当初から思っていてそういうふうに置きました。最初のプランではデジタルライブラリーは今のような中心にはなかったです。

で、やっとですね、コンセプト案のスタディに入ります。
これが初期案なんですけれども、最初の頃はこういうふうにスケッチをしていきます。最初は我々建築をやっていますのでどうしても炭鉱に興味がありました。最初の案としては、荒尾特有の風景をどういうふうに採り入れていこうか、結局はまあ最終案でも一緒なんですけれども、風景の部分に最初は炭鉱がメインで入っていたということです。炭鉱にもいろいろエレメントがあると思うんですけれども、そういうものを図書館のインテリアデザインに活かせないかと考えていました。(煉瓦ファサード、煙突、石炭貯蔵庫、竪坑櫓、炭車といった)いろいろなエレメントを当てはめていって、それらを配置したあとに、実際にそれがどういうものになるのかというイメージ図を配置したりしてイメージを膨らませて、実際にこれが荒尾市の図書館として良いのかどうか、弊社内で議論していきます。これぐらいになると、実は3Dモデルなんかもつくって見ていったんですけれども、それで議論を重ねていくうちに、干潟が入っていないのはダメだな、という話になってきまして、干潟込みで考えるようになりました。
そこで良かったのは、干潟で潮干狩りをする、物を探す、探索する、という動作と、炭鉱に入っていって石炭を採掘する、これも探索だと思うんですけれども、それと本を図書館の中で探索する、そういう行為と言いますかアクティビティが一緒になってるよ、ということを発見したのがいちばん大きかったです。それが発見できたときに、みんなで「おおっ、これだ!」というふうに決めて、そのあとからはこれに一点集中でデザインを進めていくことになりました。

図書館の設計デザインに地域性を備えるとは

株式会社船場 小倉茂之さん

川上様から今ご説明いただきました、非常に荒尾市らしさを表現したすばらしい基本構想を受けて、どのように具体的に荒尾市らしい空間にしていくかということを念頭に、どんな実際の方法をとったかというところをご説明します。

私たち船場は、基本は商業施設の開発がメインの仕事になっております。最近は図書館の設計に携わらせていただくことも非常に増えておりまして、たとえば例として3つほど挙げさせていただきますが、つがる市立図書館、東京の大田区の池上図書館、藤沢市立南市民図書館、これらはどこも商業施設の中に入っている図書館になります。商業施設の開発をよくやっていましたので、そういった施設と図書館の融合という流れの中で、図書館に携わることが増えてまいりました。
どの図書館、公共施設につきましても、私たちが設計をさせていただく際にいちばん大切にしていることは地域性です。その地域ならではの特長、特色みたいなものをしっかりと使って、また、地元の作り手さんとコラボレーションしながら、その場にちなんだ、「ならでは」の場所づくりをしていくことを念頭に設計を進めることにしています。結果として地域の方々に愛着を持って使っていただける施設になってほしいなと、お使いいただく市民の方々とのエンゲージメントみたいなかたちに繋がっていけばいいなと、そういう思いでそのような取り組みをさせていただいている次第です。

さらにどうやって荒尾市ならではの図書館にするか、ということで大きく分けて4つの項目を挙げさせていただいております。
ひとつめは、いま川上様からご説明いただきました基本構想の実現です。基本構想を忠実に場に落とし込んでいく、これは構造的にもそうですし、法規的にもそうですし、安全性やすべての面で実現していくということになります。
もうひとつは、やはりショッピングモールへのリプレイスということが肝であると思いましたので、その一体的な繋がりというものをしっかりどのようにまとめていくかということを考えた次第です。ショッピングモールというのは多世代の方々が気軽に立ち寄る、スーパーマーケットがあったりそういったMDがたくさん集約された施設ですので、そういった人の集まる流れを循環するかのように、たくさんの流動性を持った人の流れを図書館にどうやって引き込むかということも非常に重要になると思いました。
3番目は、荒尾ならではの地域の特色、それから素材みたいなものをしっかりと活かして、なおかつできるかぎり現地の職人さんであるとか工場であるとか、そういった技術、力を活かして荒尾ならではのデザインをつくっていきたいなと考えました。
4つ目は今の技術的なところとも絡みますが、地元の、たとえば小代焼という伝統的な工芸が荒尾には根づいていたり、素晴らしい技術を持った高専があったり、いろいろな地域の特色がございますので、そういった力とのコラボレーションを果たすことで、地域参加型のプロジェクトを進められないかなと思った次第です。

図書館の設計デザインに地域性を備えるとは
図書館の設計デザインに地域性を備えるとは
図書館の設計デザインに地域性を備えるとは
※参考URL:
https://www.youtube.com/watch?v=kPXgkzXrmvs
(荒尾市立図書館メイキングムービー「荒尾市立図書館ができるまで」)

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