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「本の場」ウェビナー2022回顧 ①
宮崎県椎葉村―自治体と一枚岩の図書館

本の場

2023/01/05

宮崎県椎葉村―自治体と一枚岩の図書館

2022年7月の「本の場」で取り上げた宮崎県椎葉村図書館「ぶん文Bun」は、その整備から運営まで一貫した自治体と一枚岩の戦略性が強烈に印象に残りました。初回ウェビナーのサブタイトル「公共図書館はいかにしてその存在意義を高めるか」が深く納得できた4週間だったと思います。

人口2,400人弱、面積537㎢、人口密度5人/㎢弱の「日本三大秘境」宮崎県椎葉村にはじめての公共図書館「ぶん文Bun」がオープンしたのは、2020年7月でした。
「ぶん文Bun」は交流拠点施設「Katerie(かてりえ)」の2階に整備されています。1階の交流スペースには「交流ラウンジ」、「クッキングLab」、「ものづくりLab」、ボルダリングやスラックラインといった遊具、コインランドリー等があります。山間の集落は日照時間がことのほか短く、コインランドリーが大人気なのだそうです。「ものづくりLab」には県下初導入の「Shop Bot」をはじめとしたハイテク加工機器が揃っています。2階には、過半を占める図書館のほか、大小の会議室やコワーキングスペース等が配置されています。今年度には新たに、eスポーツを体験できる先端的なマシン環境も整備されました。
「ぶん文Bun」自体、一筋縄ではいかない図書館です。全館靴を脱いで上がる、NDCではなく独自分類、子ども向け・大人向け・本も漫画もすべて混配、「エディット・キューブ」を全面採用したジャングルジムのような書架、「LENコード」と「Change Magic」による融通無碍な本の並び、閲覧(お昼寝?)用のテント型ハンモック。そこで働くのは「クリエイティブ司書」や「飛び出す司書」。??

椎葉村は、もちろん過疎の村です。図書館整備が長年の悲願だったとはいえ、この立派なハコモノと先端的なデジタル環境、ユニークでとんがった運営は、傍目には過疎地域のイメージからかけ離れたもののように見えます。ですがそこには、一貫した自治体の中長期戦略がしっかり組み込まれているのです。
椎葉村には高校がありません。大自然の中でのびのび充実した子育てを実践するファミリーも、子どもが高校になると転出していかざるをえないのです。前提として人口の流出そのものを止めることはできない、その先の戦略がUターン・Iターンの創出です。そのために、子どもたちに幼い頃から「Katerie」や「ぶん文Bun」で楽しい時間をいっぱい過ごしてほしい。かけがえのない1冊と出会い、都会に出てもなかなか味わえないようなeスポーツや工作機械に触れ、その思い出を胸に秘めて村外へ進学してほしい。そして常に「かえりたい」思いを抱いていてほしい。
ふつうの公共図書館であれば、サービス対象者は地域住民です。ところが椎葉の場合、情報を届けるべき相手は村民だけでなく、将来U・Iターンをしてくれるかもしれない日本中、世界中の人たちなのです。

「Katerie」や「ぶん文Bun」の活動を支える「飛び出す司書」と「ヒトを育てるeスポーツプレイヤー」は、現役の地域おこし協力隊員の方々です(2022年12月時点)。「クリエイティブ司書」小宮山剛さんは、地域おこし協力隊を3年間勤め上げ2022年度からは村の正職員に採用されました。いずれも椎葉出身ではなく、ちょっとわけわからないけど魅力的なミッションに釣られて協力隊に応募されたIターン者になります。
「飛び出す司書」は、「ぶん文Bun」という拠点施設ができて展開できるようになった図書館サービスを広大な村域全体に行き渡らせるために新設され、「ヒトを育てるeスポーツプレイヤー」は、eスポーツによる地域おこしが実証実験を経て正式に村の施策としてスタートするタイミングで募集された、これまた新たなポストになります。あくまでもしっかりした中長期戦略に則って、目ざとく世の中と村内の動きに対応すべくスピーディに企画を立て柔軟に予算を動かす、強かな自治体の姿勢が際立ちます。

(本棚演算株式会社 今井太郎)

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