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椎葉村にしかない、椎葉村のための図書館

本の場

2022/07/18

7月13日の「本の場」ウェビナー第6回は椎葉村編の2週目、「図書館で編まれ継がれる土地の記憶」と題して、「クリエイティブ司書」小宮山剛さんから、「ぶん文Bun」が椎葉にしかない図書館としてどんなふうに生まれ今現在も走り続けているのか、存分に語っていただきました。椎葉にしかない五感を揺さぶる本の魅せ方、村にお金が落ちる本の流通ルートづくり、「自分で考える」が学べる自由で公共的な利用ルール、なぜ著名作家の方々を呼べるのか、等々お話は深く多岐にわたり、でもONLY ONE SHIIBAの図書館として通奏低音は響き続け…。
「師匠」である太田剛さんの重厚なコメントを随時いただきながら、あっというまに1時間半が過ぎてしまいました。
以下に抜粋の書き起こしをお届けします。その濃密さの片鱗なりをお伝えできれば幸いです。

椎葉村にしかない、椎葉村のための図書館

椎葉村図書館「ぶん文Bun」クリエイティブ司書 小宮山剛さん

「クリエイティブ司書」、これは椎葉村地域おこし協力隊の募集ミッション名だったわけです。だから、何度も言うんですけど、自称ではないということですね。「クリエイティブ司書」として募集されて立候補したから、私は「クリエイティブ司書」になったわけであります。「秘境の村のブックスペースを、手作りポップなどを使ってつくりあげてください!」。この募集に応じた私が、どうやって手作り感満載のブックスペースをつくりあげていったのか、みたいな話をこれからしていきたいと思います。
ということで、「椎葉村図書館、開館秘話。」ですね。「「ブックスペース」?話が違うぜ!」ってもう最初からネガティブな話題になってますけれども、「図書館素人、理想の図書館を探す」「命題「ここにしかない生きた棚」」等々(スライドに)ありますけれども、こんな話を今日していきます。

椎葉村にしかない、椎葉村のための図書館

で、この図書館立ち上げの記録、1時間ではとてもとても入りきらないので冒頭で先にお伝えしておきますと、「図書館の夜を乗り越える 小宮山剛」で検索していただくと、私のnote記事が出てきます。『みんなの図書館』という雑誌に掲載した記事を正式に許可をいただいてnoteに、ウェブ閲覧できるように転載したものがございますので、こちらも併せてご覧いただければなと思っています。

参考URL
「図書館の夜を乗り越える」:日本三大秘境椎葉村、クリエイティブ司書爆誕秘話

僕、椎葉村に移住して、「畑でもやるかぁ」くらいの気持ちで移住したんですけど、「こりゃ違うな」っていうのが即座にわかるわけですよね。これは地域おこし協力隊界隈で言われる「移住ギャップ」というのがありますね。この辺の解消のしかたは次回、椎葉村の第3回でお話していきたいと思っております。まあこれに関しては「覚悟を決める」しかないんですけれど、覚悟を決めて図書館の仕事に当たったわけです。
で、僕もさっき言ったようにガス会社から新聞記者だったので、素人なわけですよ。そうするともう全国で事例を見ていくしかないわけです。ほんとにたくさん勉強させていただいて、出張費はかなりの割合で椎葉村に、地域おこし協力隊の活動補助金ということで負担いただきました。あとはまあ夏休みの旅行のときについでに、というケースもありましたけれど、そんな中で、2019年の8月、私が出会ったのが「雲の上の図書館」です。高知県の梼原町にあるんですけれども、まあまずシチュエーションがなんとなく椎葉村に似ている。人口が3,500人規模ということで、言っても1,000人違いますけれども。また、森林面積が梼原町94%、椎葉村96%ということで非常に山深い。さらに近隣の都市、ウチの場合は日向市とか熊本とか、梼原町さんの場合は愛媛とか高知市内まで1時間半とか車でかかっちゃう、みたいなシチュエーションが非常に似てたというのもあるんですけれども、やっぱりこの、本の並びですよね。

椎葉村にしかない、椎葉村のための図書館

なんでしょう、平面的でない本の並びの立体感、それに伴う図書館に一歩足を踏み入れたときの圧倒的な喜び。「これは表現したい!」と。ただ、ウチの「究極のローコスト建築」で、梼原の建築は隈研吾さんなんですね、はたしてどこまで近づけるかという迷いはありつつ、やっぱりこの本の並べ方と、「い」「ろ」「は」「に」「ほ」「へ」「と」の分類で本が並んでいくんですけれども、そのうち「は: 日本を今一度洗濯いたし申し候」。こんな分類ができるんだ!、っていうびっくり、驚き。土地の、坂本龍馬脱藩の土地ということを利用した分類を、図書館なのにつくっている。
ここでこの「図書館なのに」という言葉の裏にあるのは、日本全国ほとんどの図書館が日本十進分類法(NDC)という分類を使ってるわけです。で、素人の僕が調べる中で、「あ、当然この分類に従って本棚をつくっていくんだ」と思っていたわけですよね。そこをガーンと、「違う方法もあるんだよ」という、まあ壊すと言うより開いてくれた感覚が、この図書館を見学したときにあった、じゃあこのコーディネートをした人に会いたいな、というふうに思ったわけです。それが2019年の8月でした。僕が椎葉村に住み始めたのが4月ですから、4ヶ月ここまででかかったわけです。

ただひとつ、これだけはやりたいよねっていうことが決まってたわけです。生きた棚づくりしましょうよ、っていうところは、太田さんに関わっていただいた当初から根底として、もうずっと第一線としてありつづけた。この土地にしかできない、椎葉にしかできない本の魅せ方、梼原みたいに、或いは他にも見学させてもらった栃木の茂木町、そういったところみたいに、「椎葉にしかできない棚つくりたいんですよ!」っていう話は常々してきました。
だから今日の話も、生きた棚づくりに絞ってお話したいんですけれども、まず一点目。この、ウチの本棚ですね。エディットキューブという、太田さんの任意団体「図書館と地域をむすぶ協議会」に入ってもおられる東組さんという京都の業者さんが、もともとはイベントなんかで設営をされるのが非常にお得意なんですけれども、その東組さんのエディットキューブを全国で初めて全面的に利用した図書館、ということですね。何を達成したかったかというと、本が一方向、平面だけで並べられるのではなくて、縦にも横にも、そして奥行きにも立体的に繋がるようにしたかった。その中で僕たちだけの、椎葉村だけの生きた棚づくりができるんじゃないの、ということで。非常にジャングルジムのような、現地で建物の雰囲気を見ながら、ちょっと設計図とは変わりながら棚も決まっていく、みたいな。まあ箱単位で納品だったからこそできる技だったなぁという気がします。

椎葉村にしかない、椎葉村のための図書館
そしてこれも「図書館と地域をむすぶ協議会」さんならではなんですけれども、LENコード、Library Editing & Navigationコードですね、何回も唱えたので私憶えました。それとチェンジマジック。図書館システムなんてどこでも一緒なんじゃないの?、なんて素人だと思うんですけれども、やっぱりこの、まあ太田さんにこの言葉の意味は委ねたいんですけど、「編集志向」を持っているシステムということで、いちどつくった棚をまた編みなおす、何度もつくり変えられる。つまり図書館業界でわかりやすく言えば、全部を特集棚と考えて、その特集棚を常に編集し続けられる機能を持ってる。機能と言うか性格ですね。そういった性格のもとでつくりあげられたシステム。これを組み合わせるには「図書館と地域をむすぶ協議会」さんと手を組むしかなかった、というところですね。

最近、twitterで図書館司書さん界隈で、別置が多くて「全部NDCで並べろよ!」みたいな非常に荒れたツイートがたくさん流れてきてて。まあなんでしょうねぇ、「こうすれば良いのになぁ」とか思いつつ、でもこれもそれぞれの館の特徴です。規模感と、あとその土地に根差してるかどうかとかですね。NDCが良い環境もあります。すごく大規模な大学図書館とか。ただ、NDCがあるからもうNDCで良いよね、という思考停止はやめましょうよ、という話ですね。その館ごとに、その土地ごとに、最適なものを探してますかということを考えたときに、椎葉村では到底、ただNDCを入れるのでは…。だって東京の大きな図書館と同じ本の並べ方をして面白いわけがないですよね。それはやっぱり地元でちゃんと考えましょうよ、という話でした。
ほんとうにもう、我々、って僕も図書館司書3年目なんで言っちゃいますけど、我々にとって心地良い分類がお客さんにとってもちゃんと心地良いかどうかは常に考えなければならない、これどの業界でも一緒ですよね。

椎葉村にしかない、椎葉村のための図書館

図書館と地域をむすぶ協議会チーフディレクター 太田剛さん

(太田さんから見て椎葉村図書館の魅力はどこにありますか?という質問に対して)
基本的にはウチ(「図書館と地域をむすぶ協議会」)がお手伝いした最大のものは本の並びです。まあ考え方と言うか、「共同知」っていう考え方を我々はとっているので、なんでNDCを使わないかって言うと、NDCって「世界知」ではあるんだけれども「個人知」とはどうしても繋がらないので。で、図書館というのは「個人知」と「世界知」を繋ぐ「共同知」であるべきだって常々考えてるので、その意味では椎葉村という環境の中で「共同知」の本棚っていうのはこういうもんだよ、っていうのが上手くつくれてるのかなというところが、いちばんの推しかな。でその「共同知」に触れたときに、椎葉村以外の人でも心に入ってくる棚になっている、というところでしょうか。

(現在の23の独自分類は将来的に変わっていきますか?という質問に対して)
もちろん、有名な「成長する有機体である」って言葉じゃないですけど、本棚もそうでどんどん変わっていくべきとは思います。ただ、さっき言ったように「共同知」ですごく大事なのはやっぱり、普遍的な知の体系っていうのは必ずベースにあるので、そしてそれは決してNDCではないので、で、我々はそこをきちっと押さえた本棚づくり、分類をしてるので、何から何まで自由ですかっていうとそうではない。ちゃんと、人文科学、社会科学、自然科学それぞれの繋がりのところをいちばん重視していて、どの本棚とどの本棚を何でブリッジしてあげるか、っていうところをいちばん考えて本棚を並べてます。だからそのエディットキューブって、そういう立体的に本棚と本棚を本棚で繋いでそこに本が置ける、っていうところです。

(小宮山さんのアイデアに役所サイドからストップかけられることはありませんか?という質問からの流れで)
だから結局、さっきの小宮山さんの話もそうだけど、自分が立てた企画にNGが出るって思ってる時点でもうダメなんですよね。企画って自分のものじゃないんで。企画の主体を自分にしてはいけなくて、企画そのものを村に寄せていけば良いわけです。別のものに寄せていく、だから図書館はもっといろんな関わりをたくさん持っていた方が良くて、だからああやって小宮山さんが有名人を引っ張ってくるのも、そういう人に寄せていくことによって村がNGを出すっていうレベルではなくなっていくんですよね。たぶん、その企画そのものがドライブがかかって変わっていく。

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