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地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

本の場

2022/10/10

9月15日の「本の場」ウェビナーでは、NPO法人連想出版理事・中村佳史さんから全国各地の連想出版の取組み事例をご紹介いただきました。「ぎふメディアコスモス」「お茶ナビゲート」「福岡市科学館」「石川県立図書館」、どこの取組みも、利用者自身が能動的に思い出したり考えたりして刺激を受ける情報システムがベースにある、連想出版らしさに溢れたものでした。東日本大震災の復興支援活動におけるさまざまな出会いが、中村さんの中で、それらの取組みと深く絡んでいるというご説明は印象深いものでした。
以下の抜粋書き起こしでは、「ぎふ古今」、そのプロトタイプである「お茶ナビゲート」、地域情報拠点を構想するうえで深い示唆に富む「3.11」復興支援の具体的な活動の一部をご紹介します。

中村佳史さん(NPO法人連想出版理事)

今日は、「『シビックプライド』を醸成する空間をデジタルで支援する」ということで、「シビックプライド」、最近いろいろなところで使われるようになった言葉ですけれども、郷土愛であったり地域への愛着といったような意味合いがありますけれども、そういったことを公共の図書館が担っていく、そういった「シビックプライド」を醸成するところを担っていくという活動を、いろんな公共図書館さんがチャレンジされているのかなぁ、というふうに思っていて、それのひとつの事例と言いますか、私たちが取り組んできた実践例をご紹介して、話題提供ができれば良いかなと思っております。

「ぎふ古今」

この春、3月に、みんなの森ぎふメディアコスモスの1階のエントランスロビーのところに、開館以来ずっと「空地」だったところなんですけど、その正面入ってすぐのところにこういった施設ができました。当初、開館当時は「シビックプライドプレイス」という名前になってたんですけど、ご年配の議員さんから「カタカナばっかりでよくわからん」という話があったらしく愛称をつけてほしいという話になり、市民の方からの公募で、7月でしたか、「ぎふ古今」という名前になりました。

地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

結果的に非常に言いやすい名称になって良かったなぁと思うんですけれども、いちおうコンセプト的には、この真ん中にテーブルがあるんですが、これが岐阜市内を流れている長良川を模して「長良川カウンター」と言っています。それからこれが「コクーン」っていう繭、もともと岐阜は明治時代に養蚕業とその流通で非常に賑やかになったところ、という歴史的な経緯もあって、「コクーン」っていうこの繭型を作るということで設計をして、でこの中に、いくつかのサービスをいろいろと入れております。

建物もですね、この建築自体が伊東豊雄さんの建築ですので、伊東先生の建築の雰囲気とズレないようにっていう要求仕様と言いますか、ご依頼があって、伊東先生の事務所のご出身の友人の建築士と一緒に、仲間に入ってもらって、高池葉子さんっておっしゃるんですけれども、その高池さんにこの辺の設計をしてもらいました。

中に置いているのが、ひとつが「まち歩きステーション」って名前なんですけれども、岐阜の街の魅力的なスポットを集めていて、その魅力的なスポットが自由に見られるっていう端末になります。これが、現在の岐阜の街の魅力を発信するツールというかたちです。
もうひとつ大きなシステムがですね、「ぎふ歴史ギャラリー」という名前になったんですが、岐阜の歴史を古い地図と古い写真を組み合わせることによって、その風景の移り変わりをいろいろと見てもらえるような装置になっています。

「お茶ナビゲート」

まぁこんなかたちで開館当初からいろんな方々に見ていただいてたんですけれども、実はこの「ぎふ古今」のモデルと言いますかですね、この「ぎふ古今」を我々が受けて設置するに至った経緯としては、これの原型となる、我々が立ち上げから約10年間運営までしている施設がありまして、それが東京の御茶ノ水っていうところにある「お茶ナビゲート」という施設です。

日立本社ビルの跡地に2013年に「御茶ノ水ソラシティ sola city」という複合施設ビルが建ちました。それの地下1階なんですが、オープンスペースに「お茶ナビゲート」という施設を立ち上げまして、これは東京都の都市再生特区、このエリアが都市再生特区に選ばれて、その特区のひとつの条件として、こういった公共的な空間を設置しなさい、公共的な空間を設置するとそこで建てられるビルの容積率を緩和します、っていうそういった制度があるんですけど、その一環としてつくられた施設であります。

コンセプトとしては、街歩きの起点っていうのと、地域の方々の活動拠点っていうような、2つの大きなコンセプトがあったんですが、これを実現するデジタルサービスを我々の方で製作をして、で、実は運営はそこまで携わる予定は当初なかったんですが、実はその前から、神田神保町の古本街の「本と街の案内所」という神保町のインフォメーションセンターを2007年くらいからかな、8年くらいからかな、やっておりまして、その経緯もちょっとあってですね、この「お茶ナビゲート」も運営をいっしょにできないか、というようなお誘いがあって、運営まで携わるようになったという施設です。

こちらも、御茶ノ水界隈の地域のいろいろな情報を集約して、それを自由に使っていただくっていうようなコンセプトでサービスを作りました。その中のひとつのサービスが「街歩きステーション」で、実は「ぎふ古今」に入れた「まち歩きステーション」のほぼ原型と言いますか、同じものをまず御茶ノ水で展開しました。

地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

今この正面の画面に地図が表示されていて、手前の画面にこの御茶ノ水界隈のおススメのスポットと言うか、特徴的なスポットの情報が流れています。で、これ何?ってタッチすると、「稲森神社」ですよ、「マンダラ」ですよ、と飲食店から歴史的なスポットまでいろいろなスポットを紹介しています。で、今度はこちらの地図をなぞってもらうと、なぞったルート上に収録されているスポットがひゅんひゅんひゅんひゅんと上がってきて、でこれもこっちをタッチすると手前の画面の方にこれ何?ってやると非常にマイナーなお店がこうポンポンと出てくる。

で、いちばんの売りは、ここで気になったスポットを「私の散歩道」っていうこのエリアに追加していくとですね、で、印刷しますっていうボタンを押すと、利用者が自分が興味を持ったスポットをプロットしたオリジナルの地図をお渡しする、っていうサービスになります。300件ほど街のスポットの情報を入れたんですけれども、利用者の興味関心に応じてスポットを集めてもらって、そのスポットを「お茶ナビゲート」を起点にして歩いていただく、回遊してもらえると良いなというサービスになっています。これ12件までスポットを登録できるようになっていて、12件まで利用者ご自身が入れてくれればもちろん全部埋まったかたちでプリントアウトできるんですけど、仮に12件入ってなくても、残りの部分を実は連想検索で挙げる、と。なので、ユーザーが選んだスポットと内容が近そうなスポットで必ず残りの部分を埋め合わせて、こういったところに興味のあるあなただったらここも行ってみてはいかがですか?とPC側が提案してくれるかたちになっています。

地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

で、これが今現在の御茶ノ水界隈の魅力的なスポットを紹介しているというのに対して、歴史ギャラリーというこちらのサービスは、街の歴史を表現するのに古写真を300枚くらい集めて、その古写真をどう見せるかというコンセプトで作りました。各時代ごとに、その時代を表現するのに特徴的な古地図を並べています。たとえば、これは(関東大)震災直後っていう時期の古地図なんですけど、赤いところが被災したところなんですね。非常に被災したところがわかりやすいと言うか、この時代を特徴づける地図ということで選んだんですけれども、それぞれの時代を、古地図っていうのを或る種のメタファーにして、それぞれの時代にそれぞれの写真を時空間を合わせてマッチングして掲載する、と。なので、これいま、江戸時代の「ここ何?」ってやると神田明神なんですが、江戸時代の神田明神はこんな風景でしたよっていうのを錦絵から持ってきていて、同じスポットで別の時代にも写真だったり錦絵があった場合、たとえば「神田明神の明治後期どんなだったの?」ってやると明治後期の写真が見られ、昭和初期はこんな感じで、で昭和になると「あ、そうか、都電が前を走ってたんだ」みたいな感じで、スポット単位での歴史が辿れるような仕組みになっています。

地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

「3.11」

実は「お茶ナビゲート」を2013年に立ち上げたときから運営に私自身携わらせていただいていて、当初は観光案内施設的な要素も非常に考えながらやっていたんですけど、まぁそれは今でもやってはいるんですけど、意外と図書館とかそれに準ずる社会教育施設等々で、地域の知の拠点に図書館をしていこうというふうに活動されていた公共図書館畑の方々から、「お茶ナビゲート」の機能とかサービスを非常に評価いただいたんですね。その辺りから私自身の問題なんですけど、この「お茶ナビゲート」を地域情報拠点みたいなかたちでグッドプラクティスにしていくにはどうすれば良いんだろうな、っていうのを、或いはどんな機能が必要なのかなっていうのを、勉強させていただいてたんですけど、その中で私自身が振り返ってみて大きな影響を受けたなっていうのが、「3.11」です。

実はこの「3.11」、いろいろなかたちで、そんな大した力は発揮できていないんですけど、お手伝いさせていただく過程で、最大の教訓というのが、先人達が残してくれた教訓を受け取れていなかったんではないか、っていうふうに最近思ったりします。「3.11」の復興活動の中で出会ったことが、地域情報拠点というものを考えるときに非常に参考になったので、ご紹介させていただければと思います。

地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

実は私がいちばん「3.11」関係でご一緒させていただいているのは、「3.11オモイデアーカイブ」という市民団体さんとの活動です。正面に映っているこの方が、仙台で地域のタウン誌、地域情報誌をずっと出版されていた地元の出版社の「風の時編集部」の佐藤正実さんという方なんですけど、この方が仙台の地域の魅力を非常に良いかたちで発信されていて、この方が地域アーカイブという切り口で、いろんな活動をなさってたんですけれども、2011年3月11日に東日本大震災があって、震災アーカイブっていうことにも非常に取組んでいらっしゃいました。その取組みの大きな枠組みを「オモイデアーカイブ」と名付けて活動をされています。

いろんな活動をされてるんですけど、その中の大きな活動のひとつが、「3.11オモイデツアー」っていうプロジェクトです。「3.11」に絡んだツーリズムっていうのは、一種「ダークツーリズム」って言われるように、震災の津波の跡を回って受けた被害みたいなものを確認しながら教訓を学んでいくっていうようなツーリズムが今でも多いんですけど、この「3.11オモイデツアー」は、震災の怖さとか震災のときの学びっていうのももちろん含まれるんだけれども、それよりも、元々その地域に住んでいた方々と我々のようなよそ者、実は仙台市も東西に長い市なので津波の被害を受けたのは東側の沿岸部の方々で、仙台市の中心部に住んでいた街中の方は、もちろん被害は受けてるんですけど、実は津波の被害は受けてないんですね。そういう意味で言うと沿岸部の方々から見ると街中の人たちも或る意味よそ者っていう。でそういった意味で、沿岸部の地元の方々と、街中或いは全国のよそ者を、一緒のテーブルについて、この被災で或る意味なくなってしまった地域がもともとどんな地域だったのか、どんな姿だったのか、どんな文化があったのかっていうことを、地域の方々とよそ者が一緒になって会話をしながら、なくなった地域の或る意味再構築みたいなことをやるっていうツアーで、「ウォームツーリズム」って我々は自分たちで言っています。

地域情報拠点づくりのグッドプラクティスを考える―連想出版の各地の取組み

実際にここでちょっとご飯食べてニコニコしてる、これ被災地でこんなニコニコしてて良いのかって一瞬思うんですけど、でも実際ここの周りには被災された方々も一緒にいて、一緒に笑いながら被災前の生活の様子を語ってもらったりしてですね、もちろん真面目にいろいろな話を聴いたりするときもあるし、ちょっと今日は詳しくお話できないんですけど「3月12日はじまりのごはん」っていうこれは活動なんですけど、震災のあと3月12日に震災後いちばん初めに食べた食べ物は何ですかっていうことから、実は被災したことの体験っていうのを語らせるのがなかなか辛いんだけど、食事をしたっていうことは或る種楽しい体験なので、3月12日の時にいちばん最初に口にしてあぁっと落ち着いたその最初の瞬間は何でしたかっていうことを切り口にですね、逆に避難生活だったり震災後の生活ぶりっていうのをみんなで語って、そこから教訓を、まぁ教訓を得ようなんてあんまり思ってはないんですけど、そこから学べることは何だろうっていうふうにやってたりします。そんなことをこの「オモイデツアー」ではやっています。

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