「本と商店街」というイベントは、2023年6月に岩手県紫波町で生まれました。
まずは、本を片手にこの町を歩く一日を作ろう。
本の話をたくさんしよう。
YOKOSAWA CAMPUSのコーヒーや、
この町で作られたハードサイダーなどを飲み、
お店でランチでもして、まちのお風呂にも入って。そうして何気なく挨拶を交わせる相手が、
この町に少しずつ増えていくように。
地域おこし協力隊員として紫波町に移住してこの町に魅せられたクリエイター・天野咲耶(あまのさくや)さんが中心になって企画された第1回「本と商店街」には、横浜から生活綴方さん、盛岡からBOOKNERDさんという知る人ぞ知る独立系書店が出店、紫波町図書館が「出張としょかん」を展開し、本やZINEを作る作家やお店や出版社が思い思いに商品を持ち寄って、町の内外から大勢の本好きが集まりました。出店者の売上は総じて予想以上で商店街の方々にも喜ばれ、イベント当日にはもう既に、主催者側がまだ開催すると決めてもいなかった来年の内容を相談する声があちこちで上がったそうです。
天野さんがこれまた力を込めて企画された3つの魅力的なトークイベント――①「まちの本屋と図書館」(さわや書店・栗澤順一さん×紫波町図書館・手塚美希さん)、②「土地の声を聞く」(作家・安達茉莉子さん×富川岳さん)、③「本と商店街」(本屋・生活綴方さん×BOOKNERDさん)は、2023年7月末まで有料でアーカイブ配信されています。
このイベントについて天野さんは、「まちおこしのためにやるぞ」というテンションで始めたわけではない、とおっしゃいます。「自分がこれをやりたい、やったら絶対楽しいっていうことを企画して実際にやってみることで、結果的に町も喜んでくれたら嬉しい」、そして「そういうのが紫波町のマインドに近いと思う」のだそうです。もともと、翌日の日曜日に「文学フリマ岩手」に出店の予定があった生活綴方さんとBOOKNERDさんと天野さんとで、生活綴方さんがせっかく横浜から盛岡まで来られるのなら紫波でも何かやりましょう!という軽いノリでスタートし、実質の準備期間は1ヶ月半だったとか。「だからこその良さもあったかもしれないです。」
メイン会場のひとつ「旧大森書店」には久しぶりに本が並びました。在りし日のまちの本屋さんに通っていた町の人も多く、久しぶりに賑わう店内に入って懐かしんでおられたそうです。
別のメイン会場である「町屋館」ではトークイベントやグッズ販売のほか、紫波町図書館の「出張としょかん」が展開されました。今の町の中心である図書館がイベントの真ん中に出張していたことは、イベントを覗きに来た町の人たちにとって敷居を下げる効果があったのだとか。
お話を伺ってみて、主催者側がみんなで楽しんで手作りしたからこその創意工夫、特に、本好きや地域の人にとって興味が湧いてウキウキする小さな仕掛けがそこかしこに溢れた、東京辺りではなかなか巡り合えない素敵なイベントだったんだと感じられました。
図書館の人でも書店の人でもなく元々の地元の人でもない天野さんが、自分自身の楽しさの追求を第一に、気の合う仲間と一緒に、そして何より、間口が広く融通無碍な「本」というものを中心に据えて企画された「本と商店街」。来年の紫波町での第2回にはぜひ足を運んでみたいですし、これから全国各地の商店街にこの秀逸なネーミングのイベントが広まっていけば、本や出版の未来もさらにもう少し明るくなりそうな予感がします。
(本棚演算株式会社 今井太郎)
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