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学校図書館の大切さはみんなでつくる ― 鳥取県立図書館「学校図書館支援センター」のユニークさ

本の場

2023/05/15

地域おこし協力隊×図書館 ― 成長を続ける椎葉村「ぶん文Bun」

鳥取県立図書館には「学校図書館支援センター」という全国的に見てとてもユニークな組織があります。県教育委員会の小中学校課、高等学校課、特別支援教育課等の関連担当および県立図書館の館長、「学校図書館支援員」等で構成されていて、今から8年前、2015年に開設されました。

ユニークさの第一は、未就学から高校まで一貫した「とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン」を県教育委員会として策定し、その実現に向けた具体的な諸施策を、「学校図書館支援センター」が牽引役となって市町村や学校図書館現場に対してかなり踏み込んで展開されている点です。県として、学校図書館を通じて子どもたちが学ぶべきことを広義の「情報活用能力」=生涯使える「学び方」を身につけることと見定め、ビジョンでは、発達段階に応じた「育てたい子ども像」と身につけたい能力を系統立てて整理されています。首尾一貫したビジョンと、それを絵に描いた餅にしないための具体的な組織体制とが一体で実現している事例は、ほかにあまり聞いたことがありません。このユニークさが教育現場にどんなメリットをもたらすのか、一例として次のような研修の事例を伺いました。

ビジョンは、近年の急激な社会・教育環境の変化を受けて昨年度に改訂されていて、その主眼は2つ、「ふるさとキャリア教育」と「GIGAスクール構想への対応」でした。特に後者を受けて、「学校図書館支援センター」では昨年度「学校司書のためのICTスキルアップ研修会」を開催、全県の小中学校の学校司書を対象にGoogle認定講師を招聘して初級講座が行われました。参加者からは「これまで先生方のICT研修に司書が参加することは難しかった」「これでようやくスタートラインに立てた」と大好評だったため、今年度は対象を広げて中級講座の開催が計画されています。Googleのベテラン講師の方は昨年「学校司書だけを対象とした研修は初めて」とおっしゃっていたそうです。ビジョンとその実現に向けた実行力。その的確性やスピード感は非常にレベルが高いと感じます。

ユニークさの2つめは、県立図書館と市町村や高校を結びつける糊代役であり「学校図書館支援センター」の心臓とも言える「学校図書館支援員」の位置づけです。現在「鳥取県立図書館 学校図書館支援員」のお二人、橋中さんと間さんは、それぞれ県教育委員会の「小中学校課指導主事」「高等学校課指導主事」という肩書も兼ねておられます。お二人は元々現場の教員で司書の資格はお持ちではありませんが、毎日県立図書館へ出勤しカウンターにも立たれています。お仕事の中身は糊代なので、日々、市町村の教育委員会の方や高校の先生方とも直接いろいろなお話をされます。そんなとき、「指導主事」という肩書、つまり教員としての経験や知見が有効に働くのだそうです。

一方で、「学校図書館支援員」には学校図書館からさまざまな資料の問合せやレファレンスが集まってきます。そのときには県立図書館に所属しているメリットを最大限活かし、資料の専門家である図書館司書の力を借りて対応されているそうです。レファレンスだけでなく、「ふるさとキャリア教育」の支援施策として県庁担当部署と連携して県内企業の新技術や新商品を学校で展示したり、「高校生ビジネスプラン作成講座」といった高校生向け講座も開催されているそうで、その辺りは、ビジネス支援に強い鳥取県立図書館の特長を学校教育現場に上手く還元されていると感じます。

お二人とも近い将来学校現場に戻って行かれるはずですが(「やっぱり私たちは教師なので子どもたちと直に接する仕事がしたいです」とおっしゃっていました)、そのときにはまた替わりの「学校図書館支援員」が学校現場から出向されてくる、そしてそのような人事交流は、学校と図書館の双方に大きな財産をもたらし続けているのでしょう。

ユニークさの3つめは(これは1つめと2つめの必然的な帰結なのですが)、「学校図書館支援センター」と学校図書館現場との距離感がとても近いということです。たとえば県立図書館が直接支援を行える高校・特別支援学校では、「学校司書実務研修会」という独自の研修を企画開催されています。これは一人職場で相談相手のいない学校司書にとって痒い所に手が届く内容となるように現場と一緒に手作りされた研修で、普段聞きたいけど聞けない「授業や教員にどう関わっていったらいいのか」「具体的にどんなふうに声を掛ければいいのか」といった身近な困りごともみんなで共有し、ベテランの司書から直接話を聴くことでスキルアップに繋げることができるそうです。また、間接的な支援が中心の小中学校についても、市町村教育委員会や市町村立図書館からの依頼を受けて「学校図書館支援員」が県内各自治体へ出向いて行うさまざまな研修会が、年間20回を数えるのだとか。昨年度県立図書館で製作された「ホンとにやくだつ!ふるさと図書館すごろく」なんていうユニークな教材も、こういうパイプがあるからこそ県内全域にすんなり普及するのでしょう。

「鳥取県立図書館 学校図書館支援センター」やその心臓たる「学校図書館支援員」が実際に行われている学校図書館に対する支援の数々の中で、特に組織やコミュニケーションに関するユニークさを3つ、かいつまんでご紹介しました。資料面での支援をはじめ、ほかにも本当に多岐にわたって有効な施策が数多展開されているのは言うまでもありません。ですがやはり、サービスメニューを整備して公開するだけの「待ち」の姿勢ではない積極性と、その積極性を支えるご紹介したような組織体制こそが特別なものだと感じます。鳥取県では、何年か前に全県立高校の学校司書を正職員ポストにするという一大決断を下され、現在までその体制を維持されています。お題目に留まらない「学校図書館活用教育推進」が、現場だけでなく多くの関係者に支えられながら成果を出しているからこそ維持できているのだと思います。

ところでこの鳥取県立図書館の取組みは、見方を変えると、図書館の中に司書以外の専門家(この場合は学校の先生)を抱え込むことによって図書館全体の機能を多様化・高度化している事例、と捉えることができます。これからの図書館のあり方を想像するとき、忘れてはいけない成功事例のひとつだと思います。

(本棚演算株式会社 今井太郎)

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